サイト滞在時間は“長い=SEOに良い”ではなく本質で読み解くが正解

本稿は、滞在時間(平均セッション時間/ページ滞在)と成果(CV)を事実で検証する。

結論は三つだ。
第一に、滞在時間はGoogleの直接ランキング要因ではないが、ユーザー満足間接シグナルになり得る。

第二に、関係は単純因果ではない。現場のデータは、①熟読がCVRを押し上げる「直接的正相関」、②“時間の質”を高めてCVRを伸ばす「コンバージョン中心改善」、③タスク時間を短縮してもCVRを維持・向上させる「効率性パラダイム」の三つに分かれる。

第三に、勝敗を分けるのは“時間”ではなく**体験(UX)**である。UXを設計できる企業が、CVとLTVで優位を得る。

「時間」は結果であり、目的ではない

滞在時間は、あくまでエンゲージメントの粗い代理だ。長ければ良い、短ければ悪い――その素朴な二分法は、現実のユーザー行動を取りこぼす。私たちが見るべきは、直帰率やCVR、タスク完了時間との組み合わせである。高いセッション時間に低直帰・高CVRが伴えば、それは「生産的な熟読」であり、コンテンツが信頼形成に機能している証拠だ。逆に、低いセッション時間でも低直帰・高CVRが出ていれば、それは「効率的な完了」。

ユーザーは迷わず目的を達している。**時間の延伸そのものをKPI化しない。**問うべきは「何分いたか」ではなく、「その時間で何が達成されたか」である。

直近3年間の海外・国内事例

最近3年間の事例を見ていこう。

滞在時間とコンバージョンの関係を示す国内外事例(直近36か月)
ケース 業種/サイト種別 主要施策 エンゲージメント コンバージョン 示唆
Oscilar(海外) SaaS/BtoB UX全面改修・高速化・CTA最適化・A/B 平均セッション +35%、直帰 -20% デモ予約CVR 1.2%→3.7%(+208%) 高関与商材は「読む→納得→行動」。良質な熟読がCVを押し上げる。
BULK HOMME(国内) EC(化粧品) チャット導線で疑問即解消 (非開示) CVR 約1.5倍(+50%) 「時間の量」より1分の質。介入が意思決定を加速。
B-R サーティワン(国内) アプリ/EC プッシュ通知・アプリ内メッセージ 起動率 9.8倍 初月購入率 +約25% 再起動=関与の強信号。継続行動→LTVの先行指標。
セカンドストリート(国内) EC(小売) 一覧にサイズ表記(A/B) PV減少(往復回遊が不要化) CVR維持 「短くてCV維持」は効率性パラダイム。摩擦除去=勝ち。

まず海外のOscilar。SaaS/BtoBの同社は、UXの全面改修と高速化、CTAの再設計、A/Bテストを4か月回した結果、平均セッション時間が35%増直帰率は20%減、そして**デモ予約CVRが1.2%→3.7%(+208%)**まで跳ねた(Cekanak, 2022)。高関与商材ほど「読む→納得→行動」の導線が効く。良質な熟読がCVを押し上げる、教科書的なケースだ。

国内に目を移す。

BULK HOMMEは購入導線の要所でチャットを介入させ、離脱直前の疑問を即時に解消した。平均セッション時間は非開示だが、CVRは約1.5倍(+50%)。ここで効いたのは“分”の長短ではなく、1分の密度である(GENIEE, 2025)。

B-R サーティワンのアプリ「31Club」では、購入直後の“ありがとう”やクーポンのプッシュ通知アプリ起動率を9.8倍に押し上げ、初月購入率も約25%増。再起動という“関与の強信号”が、そのまま収益行動につながった(Repro, 2024)。いずれも「時間のを高める介入」がCVを引き上げている。

一方、セカンドストリートのテストは通説への反証だ。商品一覧にサイズ情報を前倒し表示した結果、一覧と詳細の“往復PV”が減った。だがCVRは維持。ユーザーはより短い時間とクリックで目的に辿り着いた(Sprocket, 2024)。ここで評価されるべきは、PVや滞在の延伸ではない。摩擦の除去である。

文中引用
Oscilar(Cekanak, 2022)、BULK HOMME(GENIEE, 2025)、B-R サーティワン(Repro, 2024)、セカンドストリート(Sprocket, 2024)。

三つのパターンで読み替える

第一に、直接的正相関。Oscilarが示す通り、複雑で高関与な商材では、熟読が信頼を醸成し、CVRを押し上げる。比較表、事例、デモ動画――“読む理由”を設計できるかが勝敗を分ける。

第二に、コンバージョン中心改善。BULKやB-Rは、チャットプッシュで“いま必要な一押し”を差し込むことで、時間の質を高めた。ユーザーは迷わず決める。時間の長短より、介入の適時性と適切性が効く。

第三に、効率性パラダイム。セカンドストリートのように、主要情報の前倒しで“往復”を消す。短くてもCVRが維持・向上するなら、それはUX設計の勝利だ。ECやタスク指向サイトでは、「タスク完了時間」「CVまでのクリック数」を一次指標として据えるべきだ。

KPI設計と実装ロードマップ

経営が見るべきKPIは整理できる。成果はCVRと最終CV(会員登録/商品購入/資料請求/問い合わせ/相談予約/体験申込/見積依頼/DL/無料診断)。効率はタスク完了時間、CVまでのクリック数、ファネル離脱率。補助として平均セッション時間、ページ滞在、直帰、スクロール深度、動画完了率を置く。順序は逆にしない。時間は補助、成果が主語だ。

実装は三層でよい。まず基盤――速度(TTFB/LCP)とモバイル最適化、可用性。次に価値と信頼――情報設計(IA)、比較表やデモ動画、FAQで“読む理由”を設計する。最後に成約――CTAの配置とコントラスト、フォーム短縮、そしてチャットやプッシュでの適時介入。A/Bは仮説駆動で回す。

例えば、カテゴリ一覧に主要スペックを出せばページ/セッションは減ってもCVRは上がる/維持する――セカンドストリート準拠の効率性仮説。製品ページに3分の解説動画+比較表を足せばページ滞在とデモ予約CVRが共に伸びる――Oscilar準拠の熟読仮説。離脱意図時にチャット/特典プッシュでFAQを即解消すればCVRが上がる――介入仮説。問を良くすれば、数字は後からついてくる。

「長さ」を競うのではなく、「設計」で勝つ

“長いほど良い”という直感は、ときに正しい。しかしそれは状況依存であり、設計で上書きできる。熟読が必要な文脈では読む理由を作り、速度と効率が価値の文脈では摩擦を消す。経営が握るべきハンドルは、滞在時間の操作ではない。エンドツーエンドの体験設計だ。
課題は、設計で解ける。

考文献

  • Cekanak(2022)How we managed to 3x the conversion rate of a fraud prevention startup in 4 months.(閲覧日: 2025-09-25)
  • GENIEE(2025-07-28)バルクオム導入事例:GENIEE CHATでCVR約1.5倍(閲覧日: 2025-09-25)
  • Repro(2024-08-28)31Club(サーティワン公式アプリ)導入成果(閲覧日: 2025-09-25)
  • Sprocket(2024-08-27)セカンドストリート:サイズ表示A/Bの効果(閲覧日: 2025-09-25)

図表の出典は本文脚注で明示:そのまま=出典:「資料名」(発行主体)/加工あり=「資料名」(発行主体)を基に当社作成

小長谷直登のイメージ
株式会社ユニバーサルマーケティング代表取締役|ビジネスアナリスト
小長谷直登
1984年神奈川県足柄上郡生まれ。 WEBマーケティングとシステム開発で54社のビジネスを支援。 SEOに強い会員サイトの構築を得意とし、新規会員獲得と既存顧客のLTV改善に寄与。 stripeを使った月額課金システムやキントーンやsalesforceとの連携。 実績として動画配信サイト、ポイントシステム構築、フリマサイト、旅行予約サイト、オンラインサロン、モノのサブスクなど一般消費者向けのサービス設計とサイト設計を得意としています。 2025年7月 AIパスポート取得済

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