Googleが自社の検索ビジネスを壊してでも守りたいもの

 

Google検索の結果画面が変わった。検索窓に質問を入れると、AIが要約した回答が最上部に表示される。ユーザーはリンクをクリックせずに答えを得る。Googleはこの機能をAI Overviewsと呼んでいる。

これは一見、Googleが自社のビジネスモデルを壊しているように見える。検索結果からウェブサイトへ誘導し、そのサイト上でAdSenseなどの広告を表示して収益を得る。20年以上続いたこの構造の前提は「ユーザーがリンクをクリックすること」だった。AI Overviewsはその前提を崩している。

だが2025年の決算を見ると、Googleの検索広告収入は過去最高を更新している。クリックが減っているのに、収益は増えた。この矛盾の裏側に、Googleが設計している次の広告経済が見える。

検索結果の7割がクリックされない

Similarwebが2025年に公開したデータによると、Google検索のゼロクリック率は69%に達した。AI Overviews導入前の2024年5月時点では56%だったため、1年で13ポイント上昇したことになる(Similarweb, 2025)。

AI Overviewsが表示された検索結果では、ユーザーがリンクをクリックする割合は8%。表示されない場合の15%と比べて、ほぼ半減している。さらにPew Researchの2025年7月の調査では、AI Overviewsが引用するリンクをクリックするユーザーはわずか1%だった。

パブリッシャーへの打撃は深刻だ。Digidayの報道によると、AI Overviews導入後にGoogleからの参照トラフィックが平均25%減少した。HubSpotは70〜80%減、CNNは27〜38%減と報じられている(Similarweb, 2025; Digital Content Next, 2025)。ニュースサイト全体では、AI Overviews導入後の12か月間でGoogleからのトラフィックが26%減少した。

検索結果の7割がクリックされず、パブリッシャーのトラフィックが大幅に減る。これだけ見れば、Googleの広告ビジネスは縮小しているはずだ。

それでも広告収益は過去最高

だが実際はその逆だ。

Alphabet(Google親会社)の2025年第4四半期決算によると、Google検索の広告収入は630億ドル。前年同期比で17%増だった。四半期ごとの推移を見ても、Q1の+10%からQ2は+12%、Q3は+15%、Q4は+17%と、成長率が加速している(Alphabet Q4 2025 Earnings, SEC filing)。

年間売上は初めて4,000億ドルを超えた。Google広告事業全体(検索+YouTube+Network)のQ4売上は823億ドルで、前年比13.5%増だった。

注目すべきは、GoogleのVP Dan Taylorの発言だ。同氏は「AI Overviewsの中、上、下、または周囲に表示される広告は、従来の検索広告と同等の収益を生んでいる」と明言した。

クリックは減った。しかし広告収入は増えた。この矛盾は、Googleが広告の収益構造そのものを変えたことで説明がつく。

Googleが設計している新しい広告経済

従来の検索広告は「クリック課金」が基本だった。ユーザーが検索し、広告をクリックし、サイトに遷移する。この一連の動作に対して広告主が費用を払う。

AI Overviewsの登場で、Googleはこの構造を書き換えようとしている。AIが生成した回答の中にネイティブ広告を組み込むことで、ユーザーがクリックする前の段階で広告接触が発生する。広告主にとっては「クリックされたか」ではなく「回答の中で表示されたか」が指標になる。

同時にGoogleは、Performance Max(PMax)という広告配信の全自動化プロダクトを強化している。PMaxでは広告主が「どの面に出すか」を選ぶことができない。Googleのアルゴリズムが検索、YouTube、Gmail、ディスプレイなどのすべての面を横断して、最適な場所に自動配信する。2025年Q4時点で、PMaxのSmart Bidding Explorationを使ったキャンペーンはコンバージョン数が平均19%増加し、コンバージョンに至る検索クエリの種類が18%拡大したとGoogleは発表している。

広告主の視点で整理すると、変化の本質は三つある。第一に、広告の表示面がクリック先のウェブサイトから検索結果画面そのものに移った。第二に、配信先の選択権がGoogleのアルゴリズムに集約された。第三に、成果の測定基準が「クリック数」から「コンバージョン数」に移行しつつある。

Googleは「クリックさせるビジネス」から「回答の中で広告を見せるビジネス」へ移行している。パブリッシャーのトラフィックが減っても、Googleの広告収入が増える構造はここにある。

Cookie撤回とMMMが示す方向

もう一つ、Googleの広告戦略に関わる大きな動きがある。サードパーティCookieの扱いだ。

Googleは長年、ChromeでのサードパーティCookie廃止を進めると宣言していた。だが2024年7月、Googleはこの計画を撤回した。2025年10月にはPrivacy Sandboxの主要な技術群を終了させ、Cookie廃止に代わる広告測定基盤の多くを事実上放棄している(Adweek, 2025)。英国CMA(競争・市場庁)が「Cookie廃止はGoogleに不当な競争優位をもたらす」と懸念を表明したことが撤回の大きな要因だった。

Cookie廃止は撤回された。だがGoogleがMMMの普及を推進する動きは止まっていない。

2025年1月、Googleはオープンソースのマーケティング・ミックス・モデリングフレームワーク「Meridian」を正式リリースした。MMMとは、各広告チャネルが売上にどれだけ貢献したかを統計的に推定する手法だ。Cookieのようなユーザー単位の追跡を必要とせず、チャネル単位の予算配分を最適化できる。

eMarketerの調査によると、米国の広告主の60%が既にMMMを導入済みで、未導入の広告主の58%も導入を検討している。Asos、Urban Outfitters、Shopifyなどが既にMeridianを利用している(eMarketer, 2025; Google Developers)。

ここで重要なのは、MMMの構造的な特性だ。MMMはチャネル全体の効果を統計モデルで推定するため、データの粒度が粗い。Googleが提供するMeridianで分析すれば、Googleのエコシステム内の広告効果は高く評価されやすい。広告主がMeridianに依存するほど、Google広告への投資が「合理的」に見える構造になる。

Cookie廃止は政治的に頓挫した。だがMMMの普及という別のルートで、Googleは広告主の予算配分に影響を与える仕組みを着実に構築している。

広告主が今考えるべきこと

Googleの一連の動きは、広告主にとって三つの実務的な判断を迫る。

第一に、オーガニック流入の減少を前提にした集客設計に切り替えること。AI Overviewsの拡大でゼロクリック率は今後も上がる。SEOだけに依存する集客は構造的に脆弱になった。メールマーケティング、指名検索の強化、コミュニティなど、検索に依存しない流入経路を並行して構築する必要がある。

第二に、PMaxの自動化に依存しすぎないポートフォリオ設計を持つこと。PMaxはコンバージョン最適化に優れているが、広告主は配信面を選べない。Googleのアルゴリズムに予算の使い方を委ねることになる。全広告予算をPMaxに集中するのではなく、自社でコントロールできるチャネルとの組み合わせで設計すべきだ。

第三に、MMM導入時にGoogle以外のチャネルも公平に評価する仕組みを持つこと。Google Meridianは無料で優れたフレームワークだが、Googleのデータに最適化されている。MMM導入の目的が「公平な予算配分」であるなら、Meridian以外のツール(Meta Robynなど)との併用や、独立した分析チームによる検証を組み込むべきだ。

自己破壊ではなく再設計

Googleが自社の検索ビジネスを壊しているように見える。だが実際に起きているのは、ビジネスモデルの再設計だ。

「検索結果のリンクをクリックさせて、その先のサイトで広告を見せる」から「検索結果画面そのもので回答を完結させ、その回答の中に広告を組み込む」へ。ユーザーが検索結果の外に出なくなるほど、Googleの広告収入は安定する。

広告主にとって必要なのは、この構造変化を恐れることではない。Googleの戦略を正確に理解した上で、自社の投資判断の根拠を自分で持つことだ。

参考文献

  • Similarweb(2025)ゼロクリック検索率調査。AI Overviews導入後のゼロクリック率69%、導入前56%。
  • Pew Research Center(2025年7月)AI Overview引用リンクのクリック率1%。
  • Digiday(2025)Google AI Overviews linked to 25% drop in publisher referral traffic.
  • Digital Content Next(2025年8月)Facts: Google’s push to AI hurts publisher traffic.
  • Alphabet Inc.(2026年2月4日)Fourth Quarter and Fiscal Year 2025 Results. SEC filing. Google検索広告Q4売上$63.07B(+17% YoY)。
  • eMarketer(2025)Google pushes marketing mix modeling into the mainstream with Meridian planning tool. 米国広告主の60%がMMM導入済み。
  • Adweek(2025)Google’s Privacy Sandbox Is Officially Dead.
  • Google Developers Meridian Documentation. https://developers.google.com/meridian

これを書いた著者

小長谷直登のイメージ
株式会社ユニバーサルマーケティング代表取締役|ビジネスアナリスト
小長谷直登
株式会社ユニバーサルマーケティング代表。マーケティングに必要なプロダクトを自ら作り、コンサルし、成果を出す。BigQueryによるデータ統合基盤の構築、ローカルLLMによる機密データのAI処理、AI長期記憶システムの開発を手がけ、上場企業を含むマーケティング戦略設計とAIプロダクト開発を支援。このサイトでは、マーケティング実務とAIプロダクト開発の現場から得た実践知を発信しています。
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